日食なつこ

アーティスト活動開始から今年で15周年を迎えた日食なつこ。ライブをすれば軒並み完売し、あいみょんやRADWIMPS・野田洋次郎など、数々の著名人からも人気を集めている彼女が、9月18日、これまでの軌跡をたどるような初のベストアルバム『日食なつこ 15th Anniversary BEST -Fly-by2024-』をリリースした。さらに11月からは『エリア現在』と題したリリースツアーをスタートさせる。15年間のあゆみを振り返りながら、今の想いをたっぷりと語ってくれた。

@平和大通り沿い/Wink 11月号より

――まず15周年に対して、ご自身の想いをお聞かせください。

日食なつこさん(以下日):15年って、正直あんまり自分の中では考えてなくて。10周年か20周年だったら分かるんですけど、なんか中途半端じゃないですか(笑)? 10周年をそんなに派手にやらなかったので、「15周年やったらいいんじゃない?」っていうチームからの提案で、じゃあやってみるか!くらいな感じで、自分ではそんなに大きくは捉えていないんですよね。

――今までを紐解いていくようなベストアルバムをリリースされましたが、ここで自身を振り返るみたいな、そういう感覚はなかったですか?

:そうですね、ベストアルバムを出すとなると、必然的に過去の曲は聴かなきゃいけなくなるなとは思っていまして。それも〝聴かなきゃいけなくなる〟っていう、わりと自分の中では義務感だったりして。過去の曲って拙いところがいっぱい、良くも悪くもあるので、できればもう振り返りたくないんですよ(笑)。出したものにはもう戻らないという気持ち。なので、逆にこういうタイミングでもないと二度と過去の曲を聴かないだろうなと…。いい機会をいただきました。

――実際振り返ってみてどうでした?

:意外と悪くなかったです。もちろん唄い方がまだまだとか、ピアノがまだまだとかはありますけど、曲自体、曲の書き方、歌詞の書き方、何を唄いたいのかというところは、想像していたよりも昔なりに考えていたんだなと思って。忘れていた昔の感覚や昔の自分の姿を見ることができたのは新鮮でした。

――15周年の〝アニバーサリーベスト〟ということで、初期の頃の曲も含めての作品。仕上がりはいかがですか?

:15年間の最初の曲から、2023年に作って2024年にレコーディングした新曲まで、まんべんなく入っていて。曲順も時代順なので、頭からバーッと聴くと、自分の歴史の資料を振り返ってるみたいな感覚なんですよね。2枚組なんですが、特に1枚目の方は2ndミニアルバムぐらいの時からの曲が多くて、正直忘れている部分もあるので、自分としても作っておいてよかったです。楽曲って、その時々の自分を真空パックしているようなものなんですよ。だから、この時代こういうことを考えていたなとか、このフレーズ書いている時は窓の外がこういう景色だったなとか、結構リアルなところがフラッシュバックしてくるような確認作業でした。

――楽曲総選挙という投票企画もされていて、アルバムを作るうえでファンの意見も一部参考にされたということだったんですけど、この結果はご自身的にはどうでした?

:それが、ちょっと意外だったんですよね。ファンの考えていることと自分の考えていることは別なんだなと思って。過去で完結した、これはもう十分唄いきったでしょと思っていた曲を、まだ上位にあげてくれるお客さんの熱意! やっぱりその想いを聞いておいてよかったなと思いましたね。基本的に今回の楽曲総選挙っていうのは、その結果をそのまま反映するんじゃなくて、あくまで予想。「どの曲が入ると思いますか?あなたの一曲を予想してください」っていう形だったので、それを必ずしも反映するわけではないよというのはファンの方も分かったうえだったと思うんですけど、アルバムに全く入れる予定のなかった曲が4位とか3位とかにあがってきていて、これはさすがに反映しないとよくないなと。それだけはファンの民意を尊重しております(笑)。

――ちなみにどの曲ですか?

:『ヒューマン』です。

――えっ! 入れる予定じゃなかったんですか!?

:なかったです!

――ダメです!

:いま絶対言われるだろうなと思いながら…(笑)。でもちゃんと理由があるんですよ。『ヒューマン』って弦楽バージョンに、ミニアルバムに入っていたバンドバージョン、そのあとさらにピアノソロバージョンと、もうすでに3パターンもリリースがされていて。こんなに世に出しているので、これ以上やったらお客さん、もういらないってなるんじゃないかな?と思っていました。こっちからはもう出すつもりはなかったのに、ファンの方はそうじゃなかったという…。

――いや、まだ欲しい!

:そうそう、まだ欲しいんだ!?って思ったんで(笑)、すみません、ありがとうございます、入れときますとなりました。

――昔の楽曲を聴いても、不思議と懐かしさは全くなくて、今でも当時と同じように心に刺さります。中には、近年になってまた再注目されてきている楽曲もありますが、それに対してはどう思われていますか?

:やっといろんな人に届いてくれたか!っていう…純粋にうれしいですよね。『エピゴウネ』とか10年前の曲ですけど、2014年に言ったことが2024年でもちゃんと誰かの役に立っているのを見ると、あの曲書いてよかったなと思いますし。言いたいことを言うべきだというのは、時代を超えても変わらないんだっていう証明になったとも思います。時間はかかったけど間違ってはなかったのかなと、ちょっと安心しましたね。

――今作を聴いていて強く感じたのは、改めて日食なつこというアーティストは15年間ずっとブレていないんだなということ。変わってはいけない核みたいなものが、ご自身の中にもあるんじゃないかと思いながら聴かせていただきました。

:こうじゃなきゃいけない!っていうのは実は全然なくて。ベストアルバムも、昔の自分はもう知らない人っていう感覚で作りました(笑)。誰だっけ?あなた、みたいな。意識して変わらずにとかはそんなに考えてない。むしろどんどんアップデートしていかないと…。

――15年間で進化は重ねてこられているけど、日食なつこというアーティストはもう15年前からずっと確立されていたんだろうなと。進化しながらも変化はしない、だから昔の曲でもずっとちゃんと響いているのかなと感じます。

:確かにそうですね。変わる・変わらない以前に、最初からあった〝変わりようがないもの〟はずっと自分の中にあるんだろうな。自分自身のことを分析したり把握しようとしたりすると、すごく狭い範囲のところにはまっちゃう気がして気持ち悪いので、自分に対してはなるべく無自覚でいたいんですよ。一方で、人からそう言っていただく意見をまとめてみると、そこが始点であり、そこが終点であり、どこにも行きようがない人間なんだろうなとなんとなく感じています。古い曲、『開拓者』や『Fly-by』の歌詞を振り返り作業として聴いている時に、すっかり忘れていたんですけど「今唄おうとしていることは、実はすでに昔唄っていたんだ…」ってことも結構ありましたし。

――気付いていないけど変わっていなかった、と。

:ですね。無自覚だけど、結局変わっていないんでしょうね。15年続けてきた中で、もちろん環境や状況は変わっていて、その度にいろんな選択をしてきました。でも、いざ決断する分岐点に立った時に、その判断の基準になるものが、活動1年目からある自分の考えに基づいていたんですよね、ずっと。こういう理由だからこっちの道に行きます、こっちの道は嫌ですって、1年目から結構はっきり見えていたし、それは今も変わらない。

――15年の時を経ても、言っていることが変わらないって本当にすごいことだし、とても難しいことでもあると思うのですが、そういった音楽を作るうえでの原動力は何だったんですか?

:それはすごく明確で、負の感情ですね。何がしたいとか、この人みたいになりたいっていうのはあんまりなくて。これは絶対にやりたくない、これやるぐらいだったら次のリリースしません、みたいな。消去法でいろんなことを決めているから、そこが、言ってみれば日食なつこっぽさなんだろうなと思います。曲で人を幸せにしたり誰かを励ましたり…それは自分の役割じゃなくて。私より得意な人がいくらでもいるし、絶対自分はそっち側の人間ではないんですよ。私にはずっと〝戒め〟とか〝律する気持ち〟が根底にあって…。何でもかんでも許される世の中って、結局破滅に向かっていくんじゃないか、自由じゃないほうが人間ってなんだかんだうまく機能するんじゃないか、みたいな想いも常にあるので。じゃあ私は律する側の機能として世の中にいた方がきっと役に立つよなと。だから、そういう負の感情から見えてくることをそのまま唄う方が私らしいし、聴いてくださる人にも何か響くものがあるんじゃないか、そんな考えでやっていますね。

――10年以上前にインタビューさせてもらった時に「現実を唄う、それが本当の意味で希望を唄うこと」とおっしゃられていたのがとても印象的だったんですが、まさにその想いに通ずる部分がありますよね。

:うわぁー怖い(笑)! どこまで行っても変われないんだなと、今自分でも改めて痛感しました(笑)。

――その変わらないところが好きです!

:ありがとうございます(笑)!。

――そして11月からは、そんなベストアルバムを引っ提げてのツアー『エリア現在』が始まりますね。アーティスト・日食なつこの、まさに〝現在〟が体感できるライブになりそうだなとワクワクしています!

:15周年を祝おうということで今年はいろいろやってきたんですが、結構トリッキーな企画が多くて。初の展覧会もすごい反響があったし、15周年なのに知ってる曲を一切やらない未発表曲のみのツアーもやったし…。本当に周年を祝う気があるのか?っていう企画ばかりで(笑)。なんだかんだ散らかしましたが、改めて周年ありがとう!っていう総まとめがこの『エリア現在』なので、正統派なツアーにしたいなと思っています。会場もホールだから、お客さんにはすごく快適に見ていただける環境ですしね。舞台装飾やら、選曲やら、魅せ方やら…お客さんにきちっとお礼として受け取ってもらえる形のライブにします。決して〝知ってる曲が1曲もねぇ!〟ってことはならないように…(笑)。

――それもある意味、日食なつこなりのお礼のやり方みたいな感じはしますけどね(笑)。

:たしかに! 未発表曲だけのツアーも、きっと何か受け取ってもらえるものがあるはずという私なりの自信があったのでやりましたけど、それは私が一番楽しいだけのツアーだったので、今度こそちゃんとお礼がしたいですね。ここまでの15年間を一緒に振り返ろう、そしてこれからもともによろしく、っていうのをステージとして表現していきます!

Profile

日食なつこ(にっしょく・なつこ)
91年、岩手県生まれ。9歳からピアノを、12歳から作詞作曲を始める。17歳から〝日食なつこ〟として盛岡を拠点に本格的な音楽活動をスタート。緻密に練り込まれた独創的な楽曲の数々は唯一無二と称され、聴く人の心の琴線を揺らす。

日食なつこ公式HP:https://nisshoku-natsuko.com/

Live

『エリア現在』
日時:11/22(金)19:00~
会場:JMSアステールプラザ中ホール
料金:6,900円(全席指定)
●チケット発売中 ※WEB受付のみ

Album

『日食なつこ 15th Anniversary BEST -Fly-by2024-』
発売中 LD&K