福山藩の礎をつくり発展させてきた藩主たち。
そのエピソードを紐解きながら、令和のビジネスにも通じる仕事術について考えます。

水野勝成の「ブランディング」

沼隈半島を中心に作られる畳表は「備後表」と呼ばれ、高級品として全国に知られている。
江戸時代以前から備後地域ではい草が栽培され、畳表が生産されていたが、その価値をよりいっそう高めたのが、福山藩初代藩主・水野勝成だ。
畳表を福山藩の特産品にする「ブランド化戦略」として、畳表を織る村々を経済的に保護。
い草を染めるための色土の産出地を指定するなど、その製法にも細かく決まりを設けた。
さらに、職人が他領の者と結婚することを禁じたり、い草・色土を多領へ持ち出すことを禁じたりした。
そうした施策から、備後表の品質は向上し、やがて一級のブランド畳として認知されるようになっていく。
水野家の2代藩主の頃には、江戸城に備後表200枚を納めたという記録が残っている。

現代では備後表の職人は減少しているが、福山の名産品としてその製法や技術は大切に受け継がれている。

伊阿彌貞高筆 殖藺図巻(複製)
原資料 個人蔵、提供 広島県立歴史博物館

今月のビジネスパーソン

村上さん

株式会社 天寶一 社長
村上 康久さん

1910年創業の福山市唯一の酒蔵で、伝統を継承しつつ、新たな「究極の食中酒」づくりに取り組む。会社が目指すのは「地元でもっとも憧れる企業」になること。

聞き手

皿海さん

福山城博物館 学芸員
皿海 弘樹さん

さまざまな文書・記録・遺物などから福山城と福山藩の歴史をひもとく案内人。福山城博物館での企画や展示解説、執筆なども行う。

村上さん
水野勝成という人は、かなり強い武将だったようですね。
皿海さん
勇猛な戦国武将であり、また福山藩主となってからは、まちづくりや経済振興策などでも高く評価されています。
村上さん
その経済振興策のひとつが、備後表のブランディングなんですね。地元産にこだわったものづくりで言うと、私たちも2~3年前から「福山」をより強く意識するようになりました。11月から、福山にちなんだ活性にごり純米生「ホワイト・バット」を備後地域限定で発売しています。
皿海さん
福山市のシンボル・こうもりですね。福山城があるところは、もとは蝙こうもりやま蝠山と称され、「蝠」は福に通じることから「福山」の由来でもあります。
村上さん
そして、「白い蝙蝠を夢で見ると幸せになる」という言い伝えもあるそうです。飲んだ人に幸せになってほしいという願いを込めています。
皿海さん
「天寶一」のブランド力を高めるために、どんなことをされていますか?
村上さん
素材の「地元らしさ」を強く意識しています。そして、ブランドを冠した商品は品質管理を徹底されている地酒専門店さんだけに卸しています。現在は地元米を99%使っていますが、来年からは地元米100%にします。
皿海さん
なるほど、素材や品質にこだわった備後表にも通じるところがありますね。
村上さん
備後表を江戸城に納めた戦略にも共感します。日本酒も、高級割烹料理店や寿司店さんに置いてもらうことが重要。最近、北海道でトップ3といわれる寿司店すべてに「天寶一」を置いてもらえることになり嬉しかったですね。一流店さんからの評価が、「天寶一」を広く知ってもらうきっかけになると思います。